博物館学Ⅰ

第1分冊
第2分冊

第1分冊

略題<博物館に求められるもの>

受付14.10.02 評価B

現代の社会は新聞、テレビを見ていると英会話スクール、高校や大学受験対策の学習塾、パソコンの資格や国家資格の教室等の生涯教育を促すコマーシャルを見ない日は無いと言うくらいであり、それらに入学し学習する人の数も年々増加しており、生涯学習の時代とも言える。しかし「生涯学習時代の到来が叫ばれてすでに久しく、この時代にこそ館園が重要な役割を果たすべしと一般に期待されているにもかかわらず、むしろ全く反対の現象のように見える。なぜだろうか。」(参考文献1)と言う見解もある。そこにはおそらくイメージの問題が関わっており、テレビや雑誌で盛んに宣伝している先に挙げたような塾やカルチャーセンターに毎週のように通い、講師に語学や資格のための勉強を教わることに比べると博物館に毎週通い、勉強するということはイメージしづらいのだろう。博物館に対する一般的なイメージについては「人文系であれ、自然系であれ、概して静的な展示が中心であり、その雰囲気はなんとなく堅苦しく、「変・古・珍」なるものが難しい説明がついて並んでいるといったイメージが今なおあるように思われる。」(参考文献2)のようであることが現状のようである。確かに一般の人に聞くと直感的に冷たい、静か、薄暗いという言わばマイナスのイメージがあり、「不要なものの置いてある少し敷居の高い建物」、「一度行けばもう行かなくても良い」などと考えられているだろう。それでは残念ながらその博物館は地域社会に対して理解してもらえず、あまり役割を果たせていないということになる。そもそも来館者の方々はそういうイメージを持った一般の人であるため「この博物館は何回行っても飽きない、もう一度行きたくなる」というイメージに変えられるような活動で、地域社会に何らかの影響を与え続けていけることが望ましい。
これは自分が小学生の時の話だが、夏休みの夜に近くの学校を使い、地元の博物館の方々が「出張星空教室」という星座についての話や星の動きを体育館で小学生向けに説明する催し物を開くということで兄と参加した際に、同時にグランドでは何台かの天体望遠鏡を設置しており、作業途中と思われる係の人に試しに覗いてみるように言われ、それまでは図鑑の写真、イラストでしか見たことが無かった土星をはっきりと輪まで自分の目で見ることができたことが子供ながら心に響くと言うか強烈な衝撃を覚え、十年以上経った今でもなお、鮮明に頭の中に残っている。肝心の説明のほうは数年後失念してしまったが、少なくともその一日の出来事がきっかけとなり自分の中で星に興味、関心を持つようになりもっと見てみたい、知りたいと思うようになり自発的に本を読み、勉強するようになっていった。
このように出張活動の参加者や博物館への来館者にその博物館の活動が何かきっかけとなり親しみを持ってもらえ、その人の学習意欲に影響を与えられることになった場合には、より知識を深めることに博物館等の機関を利用するだろうし、何かの課題を持った場合もその解決のため情報を収集することに利用する手段としてもらえるだろう。最終的には学校や講演会等で専門的な講義を受ける、また自習によって知識を付けていくことにはなると思うが、あくまでもそのきっかけという点で考えると体験、体感するということは昔も現代の社会においても人に興味を持たせられることにおいて最短距離ではないかと考える。
そのためにも積極的な広報活動と学校の長期休暇機関には巡回出張して教室を開く、またそういった活動は将来のためということで子供たちだけを対象とするのではなく、仕事や家庭を持つある程度人生が決まった大人達にも影響は与えられるので。その際には今度は来館してもっと多くの体験をしたくなるような活動を心がけていきたい。
さらに、学習意欲の充分にあるが昼間はそれぞれ職場で働いており、平日は夜しか自分の時間を持てない人にとっては深夜までとは言わないが、夜間でも開館しているような閉館時間の設定をしてもらえるとありがたい、また来館者の目的は必ずしも学習だけでなくレジャー目的の方々のことを考え、その博物館ならではという物品販売を工夫するのも良いだろう。
「確かに“博物館の望ましい基準”は、単に数量的なもののみによって決められるものではなく、博物館がそれぞれの個性に応じて如何に機能し、地域社会に貢献し得たかの内容によって計られるべきであろう。」(参考文献3)つまり「博物館の望ましい在り方」とは物の展示に関することの他に、地域社会や来館者に影響を与え、そして将来的にその人が博物館活動の支援と言う立場に立った時、そこで一種のサイクルが成立し、その博物館の個性がきっかけとなり地域社会に貢献できたと言える。博物館はこのような地域に開かれた研究機関との在り方が望ましい。

参考文献
1.「博物館研究」第三四巻第十号 日本博物館協会 一九九九年
2.倉田公裕、矢島國雄 著 「新編 博物館学」東京堂出版
3.「調査研究委員会報告書」日本博物館協会 二〇〇一年


第2分冊

略題<博物館活動と学芸員>

受付14.10.03 評価B

学芸員の仕事について博物館法の規定では「資料の収集、保管、展示および調査研究その他これと関連する事業」とあり、確かに学芸員の役割は博物館活動の中心となる資料の研究にあたることが第一に挙げられることに変わりは無い。しかし、実際は技術的な要素として資料の収集、研究、展示、事務的な要素としてパンフレットの作成、発送など学芸員はその仕事の内容や職業的な地位がきちんと決まっていないと言われている上に、それぞれの所属する博物館において違いがあること、また学芸員数が少ない中小館では専門的な仕事よりも雑務に追われることが多いのが現状のようである。さらに「ある町の博物館に勤務していた学芸員が、突然自分の専門とは全く関係の無い分野の博物館へ移動させられたという。同様の配転事件はある県の古い歴史を持つ博物館でも起きたが、しかもこの場合にはその学芸員が博物館に未登録のまま収蔵されていた標本の登録システムを決めて登録作業とデータベース化に取り組み、軌道に乗りつつある段階であった。」(参考文献1)のように誰が聞いても哀れと思えて仕方が無い例も、実際にあったようだ。このことは学芸員を研究職ではなく一般事務職と同じ扱いをしている現状を示している。このように本来の仕事ができない、また仕事をやらせてもらえずに意欲を失ってしまう学芸員がいるというのもまた現状である。各博物館の設立目的の専門分野を研究しようとしている学芸員から専門性を奪うということは。研究の機械や条件を奪ってしまうことである。
また、始めに述べた学芸員の数が少ない中小館における本来の資料の研究という仕事の他にも事務的な雑用など、多岐多様にわたる仕事を強要させられる場合が多いという現状に加え、さらに学芸員の定数規定の廃止という「公立博物館の設置及び運営に関する基準」第十二条の改正は職員の未配置が自由となることであり、博物館は豊かな博物館活動を展開する活動の担い手として学芸員という職員を必要としているはずなのに、現状ではその社会的地位は低く、やはりこの事も学芸員のやる気の根幹に関わる大きな問題となるであろう。
「過去「公立博物館の設置及び運営に関する基準」を根拠にして、設置する博物館の具体をイメージし、要求してきたケースは多いはずだ。その是非は問われるべきだが、拠って立つものすらなくなり、ますます公立博物館から学芸員は「消えていく」のかも知れない。」(参考文献2)このような意見もあるが、社会教育機関として博物館運営の必須要素である学芸員として黙っているのではなく自分の職業に誇りと自信を持ち、自分の専門の研究ばかりではなく、その研究の成果を地域社会に対して活かせられるように、例えば学校の教員を指導できる程の知識と指導力を身に付け、地域社会に貢献できるようになるというような意識、態度を持って献身的に仕事に取り組んでいきたい。
その対地域社会の手段として、大型企画展や出張巡回展を行なう場合は自分の研究成果に基づいたテーマの提案、まあ実行計画を練る企画能力も兼ね備える必要がある。例えば巡回出張教室においては、いつも同じような事を体験、体感させるのではなくたまにはテーマを変更するのも有効だろう、そして常に解りやすさと楽しさ、さらに娯楽性を加えることを意識する事によって解らないから面白くない、そして飽きてしまい二度と参加しなくなると言う極論ではあるが悪いサイクルを参加者が持つ事にはならないだろう。そのためには参加者が何を期待しているのかを読み取り、行動に移せる能力も必要となる。いずれにせよ、自分の専門分野の研究に没頭していれば良いと言うものでは無い。
市民に開かれた研究機関であるゆえに個性のある博物館活動を地域に理解してもらえるように、資料の展示といった博物館活動だけではなく学芸員他あらゆるスタッフの仕事も含めて見せるという意識も必要だろう。そのためには本や資料にだけ強くなり研究を重ねていくだけでなく、来館者他、関係者の方々に対してもコミュニケーション能力という点を強く意識する必要がある。但し、この点に関しては学芸員に限らず社会の中で生きていくうえで誰もが必要なことでもあると言えるので、普通に生活してきていれば特に心配する事ではない。
学芸員の存在意識については「学芸員は、資料の研究者であると同時に、その研究された資料を活用し、展示という形態を通して広義の教育をすることをその役割としており、その理論探求とその実践をする教育者であらねばならないと言うことになろう。」(参考文献3)と言われるように研究者だけではなく教育者の肩書きも持っていると意識し、資料の研究、保存、管理、展示を通して社会教育という目的を達成する専門家ではあるが、その成果を実際に対人間としてどういった形で伝えていくのかという教育者としての個性を考える意味で、これからはもっと視野を広げ、博物館活動に当たるべきである。

参考文献
1.「博物館研究」第三四巻第十号 日本博物館協会 一九九九年
2.犬塚康博 作成ホームページ「博物館風景」 一九八八年
3.倉田公裕、矢島國雄 著「博物館学」 東京堂出版

前ページに戻る